プロジェクト報告会 2011/7/10


2011年7月10日

北海道特別支援教育学会第6回大会(於:北海道教育大学札幌校) 自主シンポジウム5
北海道教育大学特別支援教育プロジェクト報告会
  
「特別な教育的ニーズのある子ども達の教育支援・教育方法の開発」

発表者を除く延べ参加人数:70 人余


司会:三浦哲(札幌校)


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萩原拓(旭川校):

萩原拓

 北海道教育大学の特別支援教育の全スタッフが集結して始めたプロジェクトです。
プロジェクトの構造的イメージは、各キャンパスをつなぎ、発達支援ツール(旭川)、人材育成(函館・札幌)、地域サポート(釧路)、岩見沢(デザイン)の分科会ごとに構成されています。詳しくは「ほくとくネット」のホームページをご覧ください7月12日オープンです。

 これはみなさんのお役に立てるような情報を載せるために立ち上げたホームページです。

 例えば、発達支援ツールのページでは、「すくらむ」の個別支援教育計画の説明をしたり、地域で活用できる情報をスライドにして、見やすいようにしてあります。
これですべてを網羅するのは時間がかかりますが、ある程度完成したら、上川管内の個別の教育計画を他の地域の方々が活用することが可能なものにしていきます。
テストを使わないアセスメントのフォーマットも作成しました。アセスメントのチェックリストもダウンロードして現場の先生がそのまま使えるものを目指しています。またアセスメントの結果の解釈についても解説しています。

 また、デジタル素材、例えば子どもに教える時に、いろいろなスケジュールやアイコンを使いますが、そのままダウンロードして使えるようなコンテンツも作製中です。例えば、岩見沢校のデザインの先生が作成された「手洗いの動作」の絵カードです。今後、各キャンパスでデザインを専攻している学生も参加することを想定しています。

 へき地サポートでは、二宮先生が釧路を代表して進めています。
各キャンパスの取り組みも載せています。それぞれのキャンパスの違い、それぞれの教員の取り組み、附属の特別支援学校、ふじのめ学級の報告も入っています。

 ここまで2年間の取り組みの中身になりますが、普段みなさんが活用できる素材を集めていきたいと考えています。特別支援トピック、問題行動の分析シートなども近々、アップする予定です。各地域の研修会などがなくても、うちのHPから職員室でダウンロードできるようなものを考えています。学習教材、プリント教材集などもあります。

 お役立ち情報では、どの相談機関を選択するか(さて困ったとき)という情報も出しています。またうちの大学の教員が出している論文も一覧で出しています。
 札幌校の斎藤先生が、アスペルガー症候群の先生とずっと交流を持たれていて、当事者の文章とそれに解説を加えたシリーズ連載も明日から始まります。これもすごく面白いのでお勧めです。

 またイベント等のお知らせは、教育大関係のみならず、地域のトピックやイベントもある程度は情報を入れていこうかと思っています。

 スカイプ相談は、直接の教育相談というよりは、先生たちが困っている話をフォーマットに書いてくれれば、各キャンパスの教員がコンタクトを取って相談に乗るというものです。例えばとくにへき地などでの活用を想定しています。地域につないでいくためのひとつの選択肢です。



安達潤(旭川校):

安達潤

(パワーポイント資料の提示)

 これまで上川管内で子育て支援から発達支援へつないでいく保健福祉から教育へつないでいく「すくらむ」に取り組んできました。「すくらむ」の必要性は、早期の把握ができず、二次障害・三次障害が現れるため、検診だけでなく子育て支援から発達支援につなげることが大切であるということから出発しています。

 子どもの情報を伝えるだけでなく、情報連携、子どもの理解の輪を広げることが大切だと思います。

 子ども理解シートは、「よさ・できること」(本人と環境)と「気になること」(本人と環境)の二つに分けて解釈ではなく具体的なエピソードを分けて書いていきます。環境とは、このような場面だとできる、このような場面だと苦手さが際立つなどを書きます。大きくは子どもの良さが引き出される場面を増やして、苦手なことが出てくる場面を減らすという方針になります。運動全般は嫌いだけど、「鬼ごっこ」は好んで参加するなど、同じ特徴でも表と裏が一体になっていることもあります。

 10数年前からつくりはじめて、3年前から上川で「すくらむ」を活用し始めております。いくつかの市町村では、「すくらむ」(例えば留萌)をベースにして市町村独自の特徴を加えて修正して活用しています。何ケースかで試行すれば、スムーズに記入できる。しかし、子どもの「良さ」がどうしても見つけられない保護者、子どもを中心に見ているので『環境』の視点が理解できない、コンパクトに表現することが難しい。1-2文にまとめるということに慣れていない。1日の日誌を書くことには慣れているが、ポイントに絞った書き方に慣れていない。支援を組み立てていくピースとしてのエピソードを書いていくことが慣れない。生活や行動などどの記入欄に書いたらよいのか分らないなどの意見があがっています。

 作成したときに、すぐに誰でも使えるものは想定していませんでした。この様式をかけるようになっていくと、環境の視点が広がって支援の質も上がっていくのではないかと思います。地域の支援力が向上していくための装置なのです。

 マイナス視点の観察支援をポジティブ視点で書き変えよう、簡単な観察記録から子どもの特徴ポイントを抜き出してみよう、子ども理解シートから支援に結び付ける教材など、いくつか研修の教材を作製しています。

 上川管内の障害者総合支援センターの山形さんが出してくれた意見をもとに、ネガティブな視点を検証し、ポジティブな視点でとらえ直そうというものでした。
○○ができない(本人)→~があると○○ができることもある(環境要因)とすると、環境要因を増やしてできる場面を増やしていこうという支援になります。子どもの問題を把握しようとするので、どうしても子どもの問題点ばかり注目される。Aちゃんは、まだ○○はできないが、~はできる、得意なことやできることをとらえて伸ばすと効果があります。

 子どもを見る視点に関する自分のくせを見直す。困ったことの羅列が多いようならば、別の表現をしてみよう。近くの誰かに聞いてみる、他の人は良さを捉えているかもしれないので、違う視点に気づくきっかけになります。

 「成長のための手がかり」を見つける視点をトレーニングする演習を紹介します(演習1)。乱暴で高い所に上がったり飛び跳ねたりする子は、多動で危険が多いが、運動が好きで活発という良さが見つけられる。落ち着いて安全な場所で思い切り体を動かし、エネルギーを発散する時間が必要かもしれない。

 好き嫌いが多い偏食傾向の子は、偏食指導をやめる必要はないが、調理の仕方や温度を探してこの子の自己主張の明確さにぴったり合うチャンネルを探す。こうした内容をグループディスカッションをして考えるということをしています。

 困っている本人ががんばらなくても生活しやすくなる=環境調整の支援です。例えば、まずは分りやすいものから、補聴器、点字ブロック、万能カフ(スプーンなどを自分で持つための補助具)について、困っていること、これが支援になる理由を考えてみよう。

 電卓、孫の手、レトルトカレーなど、も「物」の環境調整の支援に関する身近な例です。

 「人」の環境調整の支援に置き換えると、計算が得意な人にやってもらう、誰かに背中をかいてもらう、料理ができる人に作ってもらう、となります。あれば便利、簡単に短時間にできるため、こうして失敗が少なくなるので、がんばれるということを伝えます。

 困っていること、例えば「目が悪いこと」(本が読める)、「背が低いこと」(棚の物が取れる)、「地図が読めなくても」(目的地に行ける)をとりあげ、環境調整の支援について議論するという教材も作っています。

 子どもの記録からポイントを抜くための教材についても現在作成中です。どのような観察結果が具体的な支援につながるのかについても考えています。「調子が悪い日は、離席が多いようです」「あの子の落ち着きがないのはADHDのせいだ」では、支援の発想は出てこない。内的な状態を推測して言っているだけで、環境要因について述べていない。これにたいして「いくつもの作業手順を一度に説明すると、わからなくなってしまう」という記録だと、支援の視点が出てくる。環境と結果が書いてある。就学前の担当者の研修に活用していきたい。

 子どもの様子の一覧から記録内容を抜き出してシートのカテゴリーに応じて、それぞれ整理していくことなど、来年度に向けて研修のパッケージを開発しています。こうした取り組みを通して、地域の支援力が上がっていけばいいなと思っています。


三浦哲(札幌校):

 「すくらむ」はお母さんと一緒に書いていくことを想定しているのですか。
安達:保護者と一緒に作成しています。また一人で書くとつらいので、福祉施設の支援会議で使ってもらったりしています。経験やポジションにかかわらず、自由に討議ができるようになった。子ども状態の解釈が入らず、エピソードは誰でも平等に見ているものなので、話し合いが活発にできるということです。



五十嵐靖夫(函館校):

五十嵐靖夫

 人材育成部門は、臨床授業、教育実習、ボランティア活動、教員研修の4つのセクションに分れています。教育大の札幌校と函館校のスタッフで相互に分担しています。今日は臨床授業と教員研修を中心に報告させていただきます。
札幌と函館に実際に子どもが来て指導をする臨床授業を行っています。現在は自己評価チェックシートを通して、自分が臨床力をどのようにつけたかを評価する試みを行っています。ビデオ分析も最初は考えたのですが、毎回ビデオ映像で分析させるのは現実的ではないので、自己評価チェックシートによって振り返りをしてもらっています。
札幌校では、青山先生と安井先生がプロジェクトにかかわる臨床授業をしています。札幌では25名の指導対象児、函館では22名の指導対象児がおります。これは大学および家庭訪問の2つの形態があり、授業としては個別臨床と集団臨床を行っています。受講者数については、正規の授業のほかに、単位はすでに履修済みだが参加したいという学生も一緒にやっています。

 臨床授業での指導対象児は、4歳から高校3年生まで広範囲です。中心になるのは、PDDとADHD,アスペルガーのお子さんなどもいます。
函館校の細谷先生の授業を紹介します。2人の幼児を対象に、月に2回の臨床授業を行っています。附属特別支援学校との共同事業として2009年1月より「きりのめキッズ」がスタートしました。2010年から正式な授業として実施しています。指導計画の作成、実際の指導、指導のフィードバック、評価という流れで臨床授業を組み立てています。

 学生自己評価チェックシートは、①指導内容に関する項目、②指導技術に関する項目、③指導技術に関する項目、④教材・教具に関する項目、⑤評価に関する項目の5つのセクションから7件法で評価します。

 教育実習セクションでは、附属の函館の特別支援学校と札幌のふじのめ学級との共同の教材開発、指導プログラムを作成中です。
学生ボランティア活動では、学生がボランティア活動を通してどのような成長がみられたか、検討を行っています。
研修プログラムは「適切な子ども理解~心理アセスメントの理解と活用」(青山)、「適切な支援~アセスメントに基づいた指導」(五十嵐)、「適切な支援~校内支援体制作りと教育相談」(小野寺)、これら3つのセット研修を6か所で行います。
研修会については、札幌市、稚内市、旭川市、砂川市の4か所が決定しております。謝金も旅費もからないので、会場を用意していたくだけなので、離島も打診しましたが断られました。

 研修のアンケートは、理解が深まる項目もあるが、かえって自己評価が下がる(自分
の無知を自覚するため)結果も一部見られました。



フロア:

 
現職教員のプログラムは、今年度があと2回ですか?


五十嵐靖夫(函館校):

 基本的に今年度内ですが、このプロジェクトが今後どうなるのかにもよりますが、できれば継続したいと考えています。



二宮信一(釧路校):

二宮信一

 北海道の距離的な話をしますと、帯広まで120キロ、羅臼町まで150キロあります。片道3時間かけていって、授業を見て帰ってくると夜中になっていたりします。
 近年の統廃合が急速に進んで、スクールバスの安全が確保できないので、地元の特別支援学校に行けず、特別支援学校(養護学校)に行っているという中学校の数は65から59まで減っています。小学校の複式が6割あります。10人以下の学校では保健室の先生もいない。特別支援学級の立地率は高いが、特別支援学級の担当者は新採用・臨時採用が多い。

 根室市は5年未満の先生が45%、10年未満で60%。羅臼町は5年未満で50%を超える。20-30代の先生が中心であり、授業づくりをまずやることが課題になります。しかも複式ですから2学年分の教材研究をしなければならない。

 根室管内の特別支援学級の担当者は、特殊教育の時代に蓄積もなく、0-4年の経験者が68%を占める。一対一で孤立した状態で特別支援学級をやっているのが現状です。初任でも特別支援コーディネーターを指名されたりします。養護学校(特別支援学校)も遠い。

 10年選手がわずかに増えている。117人中、10年以上の教員が11人(根室:2011年)。就学援助率は釧路市では30%を占めており、経済的な貧困を抱えている。

 根室管内の高校生の大学・短大の進学率は17.9%である。名前を書けば高校に合格できるため、受験が勉強の動機づけにはならない。

 社会資源は徐々に整備されていますが、実質的には緑が丘病院より東側には精神医学の医師はいませんので、片道5時間かかります。根室管内でお産はできず、根室まで行かないと出産できない。小児科医も不足して、子育て環境が厳しい。
 特別支援教育が前提としている少ない社会資源のなかで連携もできていない。根室に生まれること自体がリスク要因になっている。そこでがんばっている若い先生を支える仕組みを作っていくことが我々の課題です。すべての子どもの学びと育ちを支えることが大切です。

 専門家がいたとしても、2-3カ月待ちでは、資源がないのと同じです。絶対数が足りず見通しもないと考えて、支援をデザインしないといけない。専門家がいれば、例えば発達外来に依存します。そこで我々はCBRをモデルに考えていかなければならない。

 地域は、人と人の結びつけが強く、プライバシーもない。逆に支えてくれる強いネットワークに入り込めば、ソーシャル・キャピタルになる。結合型、インフォーマル、熱い、内部志向という特徴がある。学校教員は、5-6年経ったらいなくなる外者。地域にマッチしていないと、その先生がいなくなると特別支援教育が衰退する。コミュニティ(結合型)と学校資源のソーシャルキャピタルを捉える。社会資源はないが、世話好きのおじちゃん、おばちゃんはたくさんいるため、生活のしやすさをデザインする強みがあるのではないか。

 エコロジー的に考えると、その地域(学校)の次のステップを構想することが重要であり、集団の最近接領域を設定して次の段階を想定していくことが重要ではないか。例えば酪農地域と漁業の地域が統廃合されると、保護者会も持ちづらい異なる学校文化・習慣を持っている。幼・保・小・中学校につなげていく、人ひと人とのつながりのなかで支援につなげていく。

 特別支援教育ではない切り口で、行動の問題について取り組む時は表向きは生徒指導、LDの学習問題は学力問題としてとらえ直す。特別支援教育と言わず、支援をしてくアプローチが重要。例えば義務教育段階の養護学校がないが、分教室の設置は可能なのか、道教委に提案したいと考えています。



フロア:

 1学年が12名の小学校で過ごすという実際の話です。暴れる男の子がいて、親と教員で話し合い、一人ではなく数名の生徒が「○○ちゃんが朝ごはん食べていないと暴れるよ」と言う。高校教員の経験から、たぶん同級生がよく特徴もつかんでいて、支援者になる可能性があると思います



二宮信一(釧路校):

 保育園から中学校までほとんど一緒です。みんなが兄弟みたいな状態、みんなで少ない仲間をつくって18年間過ごしていく。子どもが一番分っていて、新しい先生が何も分らないという状況も確かに見られます。

 中間の報告ですが、研究の結果は3月までにHP「ほくとくネット」にアップされますので、そちらをご覧ください。


会場の様子