特別支援教育全学研究プロジェクト 「人材養成プログラム開発」部門
「附属ふじのめ学級の教育実習における授業分析および教材開発の質的向上に関する実践的研究」
平成22年度報告
Ⅰ.概要
平成22年度は、教育実習における授業分析および教材開発に関する検討と情報の収集を行った。
ふじのめ学級の教育実習は札幌校の特別支援教育専攻生2年生全員を対象としており、毎年8月下旬から9月中旬にかけて3週間実施される。本年度は、過去の実習に関する資料の再検討、事前指導の在り方について意見交換を行い、23年度の本格実施に向けて授業分析を行うための環境整備、教材開発の充実に向けた準備を進めてきた。
今年度の授業研究に関する主な成果は、ふじのめ学級の研究紀要第40集(2010.11)『今を生き生きと活動し、新たな楽しさを発見していく子どもを求めて<第3年次>』として発表された。
Ⅱ.附属特別支援学校・学級に関する訪問調査
北海道教育大学札幌校附属小学校・中学校ふじのめ学級の教員が他の大学における附属特別支援学校・学級を訪問し、授業・指導法や大学との連携、実習の在り方にかんする調査を実施した。
1. 京都教育大学 附属特別支援学校
1-1.調査日程と訪問者名
日 時:平成23年1月12日(水)
訪問者:北本美千代(附属札幌中学校特別支援学級)
田村佳那 (附属札幌小学校特別支援学級)
1-2.調査内容
教頭先生より説明を受けた後で学校見学をさせていただいた。
①授業・指導法に関する内容
京都教育大学特別支援学校は知的障害児を対象とし、小学部・中学部・高等部が併設されている。元日本軍の射撃場の跡地で、約1万坪の校地面積があり、校舎裏には竹林があるなど、自然に囲まれている。教育目標は「生活意欲に富む、個性豊かな社会人を育てる」とし、小学部では、「のびのびとした自己表現ができ、意欲的に活動できる子どもを育てる」、中学部では、「中学生としての自覚を持ち、他人に頼らず最後までやり抜く意欲をつくり、個人の特性を重んじ、互いに理解し合う社会化された個性を育てる、高等部では、「心身の調和的発達をはかり、青年中期の生活を充実させるとともに、勤労意欲と職業生活や家庭生活の自立に生かせる個性を育てる」としている。
教育の内容は基礎・基本を重視し、生活に根ざした教育の内容(遊び、生活、作業学習など)、方法としては、校内の自然環境を生かし、実感をともなう体験を重視した教育を行っている。
②教師へのインタビュー、学級や子どもの様子など
子どもたちはみんなのびのびとした感じであった。校庭には、竹や木材を使い、子どもと教師が一緒につくった遊具がたくさんあった。子どもたち発想を大切に、教師が工夫しながら作成している。通学は、小学部はスクールバス利用。中学部・高等部は自主通学。約1時間以内で登校できる範囲とされており、京都市内だけではなく、京都府内のいろいろな場所から、66名の子どもたちが通学している。
③附属の通常学級や地域の学校との交流の有無、教育実習に関する内容
附属の通常学級との交流や地域の学校との交流については、附属学校園の巡回相談が主となっている。僻地校や京都府内の小規模校への支援やかかわりについてはしていない。
教育実習に関しては、年間300名の学生を引き受けている。発達障害教育を専攻している学生はもちろんのこと、副免の学生と現職の教員などが在籍している専攻科の学生の教育実習も受け入れている。最近は副免で特別支援の免許を取得したい人が増え、教育実習の受け入れが課題となっている。受け入れ人数が多いため、研究授業をするのは1回、複数で指導場合もある。
昨年、学生を対象とするアンケート調査と他大学の訪問調査を行い、教育実習等のあり方を模索している。
2. 京都教育大学 附属京都小中学校 特別支援学級
2-1.調査日程と訪問者名
日 時:平成23年1月13日(木)
訪問者:北本美千代(附属札幌中学校特別支援学級)
田村佳那 (附属札幌小学校特別支援学級)
2-2.調査内容
中学校副校長先生、特別支援学級の主任より説明をいただいた後、中学校特別支援学級の美術の授業を参観させていただいた。
①授業・指導法に関する内容
附属京都小中学校は、2002年度より小中一貫教育の教育課程と学校システムの研究をはじめ、2010年4月よりキャリア教育を中核に据えた小中一貫教育学校として新たにスタートした。小中の学校施設を一体化し、小中9年間を通して、生徒一人一人のキャリア発達能力に焦点を当てた教科授業をはじめ、様々な教育活動を展開している。具体的に学校施設は、初等部(1~4年生)、中等部(5~7年生)、高等部(8~9年生)とし、中高等部は同じ校舎で学習している。また、特色として、特別支援学級と通常学級との交流教育を掲げ、学校生活場面で日常的に交流することから、お互いに理解を深め、仲間意識を持って個性を認め合い協力し合う活動を進めている。
②教師へのインタビュー、学級や子どもの様子など
中学校では、通常学級と特別支援学級ともに教科担任制の形態で授業を行っている。国語・数学など各教
科の担当教師が特別支援学級の国語・数学などの学習を担当している。教科の学習は学年ごとに行われているが、美術・音楽などの芸術教科については、特別支援学級の3学年合同で行っている。特別支援学級の担任は4名であり、特別支援教育の免許の有無にかかわらず担任している。教科担任制をとっているため、多くの教師が特別支援学級の子どもたちとかかわりをもち、教師間で共通理解をはかって指導している。
中学校美術科の学習を参観したが、美術に担当教師が2人で授業を進めていた。生徒たちが、学年ごとに実態は異なるが、楽しそうに学習に参加していた。
③附属の通常学級や地域の学校との交流の有無、教育実習に関する内容
附属の通常学級との交流については日常的に行われ、学年が同じフロアで、教室は通常学級の並びに設置し、学習している。学年の行事に参加し、特別支援学級の行事に通常学級の生徒が参加することも多い。一方、地域の学校との交流はない。京都市内の特別支援学級の生徒数は1~2名の少人数の場合が多い。
教育実習に関しては、発達障害教育専攻の学生は附属特別支援学校で受け入れるため、学校見学という形で1回来校するのみである。
3.筑波大学附属大塚特別支援学校
参考:東京都文京区春日1丁目5-5
3-1.調査日程と訪問者
平成23年1月27日(木)13:30~16:00
訪問者: 中川 幸樹 (附属札幌中特別支援学級)
松田 岳大 (附属札幌小特別支援学級)
3-2.調査内容
・校内を見学させていただいたあと、副校長と懇談した。
①学校の特色
・全国に50ある国立大学附属特別支援学校の中で、「筑波大附属大塚」と「東京学芸大附属」の2校のみが幼稚部を設置している。
・現研究では、小中高12カ年の指導を見据えて作成した「経験内容表」の改訂を進めている。
・人事交流で、鹿児島大附属からの教員派遣を受け入れている。
②附属の通常学級や地域の学校との交流の有無
・「支援部」を設置し、文京区をフィールドに相談・支援活動をしている。
・支援部専属で3名の教員を配置している。重複学級枠で職員が加配されている分を校内でやりくりして配置している。
・「支援部の活動を維持するには、職場のチームワークが不可欠だ。」「支援部を設置することへの本校保護者の反応も両極だったが、日々の教育実践を充実させることで、今は受け入れられている。」「公開研修会(授業参観と子ども観察、講義、授業づくり)を開催しているが、現場の先生の支援のニーズをまだまだ把握していかなければならない。」といった課題を聞かせていただいた。
③教育実習に関する内容
・1年次に学校参観の日を設定したり、1日児童生徒とともに活動する機会も設けたりしている。
・3年次に3週間、基礎免実習の前に特別支援実習を行っている。(教職大学院は、1年次から)
・「学生がつくる指導案の質が下がってきている。指導案の書き方の指導が課題であるが、現在は配属担任任せになっている。」「学生の参観授業については、授業者が指導案を用意し、学生が指導案と授業とのつながりを学べるようにしている。」「1クラスあたり3名程度の実習生を抱えている。19~20時くらいまでかかって実習生指導をしている。」「大学院を出て、すぐ現場の即戦力になれるような人材育成ができているか疑問である。」「現教員も実践を通して模範や教師としての心意気を示し、学生を引きつけられるような力量をつけなければならない。」といった課題を聞かせていただいた。
④別添資料
・「学校要覧」
4.東京学芸大学附属特別支援学校
参考:東京都東久留米市氷川台1丁目6-1
4-1.調査日程と訪問者
平成23年1月28日(金)9:40~16:20
訪問者: 中川 幸樹 (附属札幌中特別支援学級)
松田 岳大 (附属札幌小特別支援学級)
4-2.調査内容
研究協議会に一日参加したほか、「教育実習」に関する資料をいただいた。
①授業・指導法に関する内容
・小学部では、学部研究テーマを「子どもたちのコミュニケーションの充実をめざした授業づくり」とし、公開授業では、教科の目標と研究にかかわる「コミュニケーション」の目標の2本立てで授業づくりをしていた。
・中学部では、これまで国語・数学の授業を個別課題のように行ってきたが、アセスメントをもとに4グループを編成し、グループ別授業を通して「学び合い」の姿を引き出すことに取り組んでいた。
②附属の通常学級や地域の学校との交流の有無
・「相談部」を設置し、東久留米市をフィールドに相談・支援活動をしている。
③教育実習に関する内容
・4年次に3週間、特別支援実習を行っている。
・実習前に5日間の「観察実習」と配属学級に指導補助として入る「プレ実習」(参加は学生の任意)、そして実習を通して得た個々の課題などに再度取り組める場としての実習後の「ポスト実習」が設定されている。
・1クラスあたりの受入数は多いようだ。
④別添資料
・「学校要覧」
・パンフ「相談部ごあんない」
・レポート「教育実習の充実に向けた取り組み」
・学生向け冊子「教育実習」
学校視察報告書(ふじのめ)H22.pdf