発達支援Q&A

発達支援Q&A

発達支援Q&Aについて


 このQ&Aは、札幌校の齊藤真善先生の講義「特別支援教育」において、
 学生からの発達障害に関する質問に対して、先生が授業で回答されたものを
 紹介していくコーナーです。

 発達障害の子どもの関わり方の参考になると幸いです!

 伊藤

質問その1 教師の説明の仕方は?

Q 学級内での教師の説明の仕方は。

A 自閉症についての講義をしても、クラスメートの「関わる力」は
身につかないでしょう。それよりも、先生がその子と仲良くつきあっている様子を普段から見せていれば、自然にまわりの子たちもまねをします。

学級運営がうまくいっていない時というのは、担任の先生自身がその子を理解できず、対応にあたふたしている場合が多いです。

 先生がその子と上手に付き合えていると、何か問題が起こっても、
 クラスの子たちは先生と同じアプローチで接することができるように
 なります。

 例えば、その子が怒り出した時に、先生が理由を説明し、子供の気持ちを言葉にしながらなだめているうちに、落ち着いていく様を見ているクラスメートは、数ヶ月すると「あんな風にこの子と関わればいいのだ」というふうに、先生と同じ方法でアプローチする子が増えてきます。

 つまり、先生の理解が的確であることや先生が普段からその子と仲の良い関係にあることが大事ということです。

質問その2 自閉症の人と話すスピードは?


Q 自閉症の人と話す時のスピードはどのくらいが良いですか。

 

A スピードの問題より、どのくらい単語や句の間にポーズを置くのかという問題の方が大事だと思います。

 自閉症の問題点は言葉と言葉の関係を理解するまでに、大変時間がかかることです。

 そのため、複雑な文章で、なおかつ長い文章だと、その文章をどのように解釈すればいいのか、頭の中で整理するまでに時間がかかるのです。

 そこで、単語や句など一番小さな意味的なまとまりを、一回投げかけてみて、それを相手が理解したと了解できてから、次の単語や句をつなげてあげるといいです。

 意味の単位を少し小さめにしてあげること、言葉と言葉の間にたっぷりと間を設けて、推論する時間を確保することで、だいぶ理解しやすくなると思います。

質問その3 情報過多への有効な方法とは?


 Q 会話という場面が自閉症の子にとって、情報過多ならば、手紙やメールなどの平面媒体が有効ではないでしょうか。


A その通りです。手紙・メールでの対話は当事者に有効な方法だと思います。

 会話だと、言葉や表現が省略されてしまうことがありますし、発せられた言葉はすぐに消えてしまいます。

 その点、手紙やメールは、論理的な文章を時間をかけて書くことができますし、何度も繰り返し読むことができます。

質問その4 どの子も楽しく受けられる授業とは?

Q 程度にもよるが、自閉症の子のために授業を作るには、新たな情報以外はいつも同じであった方が良いと授業でおっしゃっていたが、普通の子はいつも同じだと飽きてしまうと思うので、自閉症の子と通常の子が同じ教室でどちらも楽しく受けられる授業はあるのでしょうか。


A 質問にある「いつも同じ」つまりパターンやルーティンは子どもを飽きさせるのではないかという点についてですが、私は、今の学校はルーティンが少なく、不安になっている子どもが多いのではないかと逆に心配しています。

 昔に比べ先生方の授業スキルも向上していると私は思っていますし、使える教材・教具も豊富化、高度化しています。
 
 しかしながら、毎回趣向をこらして授業をすることによって、一時的には子どもの注目は引きつけることはできますが、長続きしませんし、本当に身につけなければならないことは実際は単調で反復的な作業を伴うものなので、おろそかになってしまうのではないでしょうか。
 
 授業は、お祭りのようなイベントではないと私は思います。学びにはたしかにワクワクやドキドキは必要ですが、それはきっかけに過ぎず、むしろそこから本当の学びが始まるのです。学びの大半は、昨日よりも今日、今日よりも明日という小さな自分の進歩が見えるような環境において行われるものなのではないでしょうか。

 子どもが頑張ろうとする動機は、好奇心ばかりではないのです。「できた」「わかった」という確かな感覚が重要なのではないでしょうか?

 子どもたちが自分自身の進歩に気づくためには、いつもやっている、当たり前のルーティン作業(ある程度安定した環境)が必要だと私は考えます。

 目新しい教材・趣向を凝らした台本ばかりでは、子供たちは自分の位置を客観視することが難しくなります。なぜなら変化の多い授業の連続では、基準が不明確になってしまうからです。

  大事なことは、身につけなければならない「アカデミックスキル」「考え方」を、大人が責任を持って明示的に教えること、「アカデミックスキル」「考え方」について子どもが思う存分に試行錯誤できる時間を保証してあげることです。

 もし子どもが飽きてきたら、そのうち子どもの方から「新しいことをしてほしい」と要望が出てくるはずです。それが新たな展開の時期なのではないでしょうか。若い先生や経験の少ない先生は、子どもの注意を何とか引きつけたくて、イベント的な授業をやってしまう傾向があると思います。

 ついでに申しますが、発達障害の子だけが授業に不適応を起こしているのではないのです。そういうクラスでは、学力が平均以下の子ども達も、実は、基礎学力が伸びなくて困っていることが多いのです。

 発達障害の子供たちは、一番最初にその環境に適応できなくなってしまうことが多いので、目立っているだけなんですね。
 
 つまり発達障害の子に合わせた授業というのは、特殊な授業なのではなく、誰もが自分の手持ちの力を使って取り組める主体的な授業にするということなのです。